しばらく頭がパンクしていました。2011/05/26 16:30

SONY SS-G7
 あの日、私はぼんやりとテレビを見ながら、「ひょっとして、この災害はこの国にとって『9/11』以上の転機になるかもしれない」と考えていました。

 どうもそれは当たっていたようです。ただ、良い方向への転機になるのか、悪い方向への転機になるのか、それはまだ予想がつきません。ちょうど「シュレディンガーの猫」のように、いまだ観察行為によって確率的事象が一意に決定する前夜にあるようです。はたして、観察の瞬間、哀れな死骸になった猫が現れるのか、それとも元気に甘えてくるのか、まだ誰にもわかりません。

 願わくば、元通り、元気に甘えてきてくれれば……。

 そんな中、私は衝動買いをしてしまいました。

 どうやら半年ぶりに、近くのハードオフを覗いてみました。何か買い物のあてがあったのではなく、時間つぶしのためでした。

 そうしたら、あったのです――SONY SS-G7。私が高校生のみぎり、憧れに憧れたソニー・スピーカーのフラッグ・シップ、現在なお、ソニーどころか日本のスピーカー史上でもフロア型の最高傑作の一つと言われる品物です。もちろん、当時、裕福な友人は親にぽんと買ってもらった者もいたようですが、私にはとても手の出る品物ではありませんでした。

 しかし、発売から35年、店頭でも「ジャンク品」という扱いでした。サポートができないから、というのがその理由です。外観はまったく問題なし、布エッジに手作業で塗布されたダンプ剤はいまだ輝きと粘り気を保っています。よく、ドームがへこんだり穴があいたりと無残な姿をさらしていることの多いスクォーカーも健在。なにより、エンクロージュアは多少のすれ・かけはあっても、まだ光沢を保っていました。

 おそるおそる試聴を申出てみると、意外にも「どうぞどうぞ」と、ふだん入れないスタッフ・ルームに招き入れられました。思っていたよりしっかりした試聴環境(失礼)に驚きながら、いつも試聴に使っているCDを再生したら……驚きました。そのみずみずしさと雄大さ、とても年代物とは思えません。おそらく、目をつぶって聴かせたら最新スピーカーと思う人も少なくないでしょう。

 ほとんど反射的に衝動買いしていました。

 しかし、搬入は困難を極めました。1本48kgという重量を2階の自室へ運び入れる難行苦行は3時間に及び、セッティング完了。

 そして、音が出た瞬間、私の中のジグソーパズルの欠けたピースが、ぴたりとはまったのを感じました。

 当時、このスピーカーは、Lo-D(HITACHI)のHMA-9500とベストマッチで、豪快な音が特徴だ、というのが評論家諸氏の意見だったと記憶しています。しかし、私の数少ない試聴経験では、むしろ、雄大な低音と繊細な中高域のバランスの良さ、山っ気やはったりのなさに好印象をもったものでした。

 そして……その印象は間違っていませんでした。

 もちろん、私の愛するPARC Audioのスピーカーには、これまた果てしない愛着があります。しかし、それだけの逸品でなお満たされなかった部分がここにはある。

 多くの方々から「よかったですね、大事に使ってやってください」と声をかけていただきました。

 スペース的にどうかな、って思っていたのも、まだわずか3日というのに、すでに何年もあるべきところにあったように鎮座しています。

「出会い」とは不思議なものです。

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